40代〜60代の中高年女性に好発し、絞扼性(こうやくせい)神...
2026/06/08
40代〜60代の中高年女性に好発し、絞扼性(こうやくせい)神経障害の中で最も頻発する「手根管症候群」について、医学的知見に基づいた詳細な病態と臨床像を解説します。単なる手首の疲労として放置されがちですが、進行すると運動障害を惹起するため、正確な病態把握が求められる疾患です。
1. 解剖学的構造と病態メカニズム
手根管は、手根骨と強固な「屈筋支帯(横手根靭帯)」に囲まれた狭いトンネル状の構造です。この限定された空間内を、「正中神経」と指を屈曲させる「9本の腱」が密に走行しています。
手の酷使などにより腱鞘の滑膜が肥厚すると、管内圧が容易に上昇して正中神経を物理的に圧迫し、特有の神経症状を発症します。
2. 特徴的な臨床症状
感覚障害の局在: 正中神経の支配領域である「母指(親指)から環指(薬指)の橈側半分」の掌側に、しびれやピリピリとした疼痛が現れます。
夜間痛と「flick sign」: 症状は夜間から明け方にかけて増悪する特徴があります。痛みのあまり思わず手を振ることでしびれを緩和させようとする「flick sign(フリックサイン)」は、本症候群を強く疑う重要な臨床指標です。
母指球筋の萎縮(運動障害への移行): 圧迫が長期化すると、親指の付け根にある「母指球筋」が萎縮して平坦化します。これにより親指と人差し指で綺麗な円を作れなくなる「Perfect O(パーフェクトオー)テストの不整」が生じ、ボタン掛けなど細かいものをつまむ日常生活動作(ADL)に著しい障害をもたらします。
3. 多岐にわたる病因・背景因子
単なる使いすぎだけでなく、複数の背景因子が関与して発症します。
局所因子: 手の過度な酷使による腱鞘炎、陳旧性の骨折変形、ガングリオンや脂肪腫などの占拠性病変。
全身・代謝因子: 人工透析に伴うアミロイド沈着、糖尿病、甲状腺機能低下症、および閉経や妊娠・出産期におけるホルモンバランスの変化(組織の浮腫)。
4. 徒手検査法(誘発テスト)
臨床における客観的な状態把握のために、以下のテストが用いられます。
Tinel(ティネル)様徴候: 障害された正中神経(圧迫部)を軽く叩打することで、その支配領域にチクチクとした蟻走感(アリが這うような感覚)が誘発されるかを評価します。
Phalen(ファーレン)テスト: 手関節を最大限屈曲(掌屈)させた状態を約1分間保持します。手根管内の内圧を意図的に高めて神経への虚血を促し、しびれや疼痛が増悪・出現するかを確認します(患者様の約70〜80%で陽性)。
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